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「んふー、ありがと亜梨珠。アタシも亜梨珠が好きだよー」
そう言って亜梨珠の頭を撫でる百合子。仲睦まじい母娘の光景だ。
「お、おかしいだろ…ありえねーよ…母親が兄と妹が結ばれるのを応援するなんて」
後退る智。それに追い討ちをかける様に百合子は言った。
「この娘も子供が生める身体になったしね。そろそろ事実を告げてもいっかなー、と思ってさ。ま、亜梨珠が智君の事を兄と思ってんならそのままでもいいと思ったんだけど。実は亜梨珠、預かりものなのよ。私と智君とは血の繋がりが無いのよ」
「………はぁ?」
突拍子も無い発言に口を大きく開ける智。
「故に智君と亜梨珠がくっついても別に問題無いワケ。智君が他の女の子連れてきても祝福するしさ。恋愛は色んな事あるものね。どっちにしろアタシにゃアンタらの惚れた腫れたを止める気は毛頭無い」
「あにさまはほかのおんなにわたさない。あにさまのこはわれがはらむもの」
余りの急展開に具合が悪くなってきた智。取り敢えずこの異常な空間から離れよう。時間を置いたらまた通常の世界に戻れるかもしれないから。父親がいなくてもちゃんと平和に生活している母親と兄妹の家庭に。
「…学校、行ってくる」
「あいよー、いってらっしゃい。今日は仕事で帰れないから。晩飯は亜梨珠に作ってもらいなさいね」
「いひっ。あにさまのしょくじはわれがたんせいこめてつくってあげようぞ」
智は深い溜息を吐いて家を出た。
平穏なる日常。それに少しだけ恋愛の要素があればいい。そんな生活を望んでいたのにどうしてこんな展開になるんだろう?
そりゃあ妹の亜梨珠は性格はともかく掛け値ない美人だよ。あんな女の子に迫られたら普通は靡くよ。でも妹だろ?血は繋がってなくても妹だよ!妹としてしか見られないよ!そんなのに好きだ妻になる子供生みたいとか言われてもなあ…。
「困るだろうが」
そう呟いて顔を上げる。すると女子生徒と目が合う。
「ひいいっ!や、やだ…襲わないでっ!ケダモノっ!外道っ!鬼畜っ!」
そう言ってへたりこむ女子生徒。
露骨に舌打ちして智は足早に通り過ぎる。背後から囁かれる罵倒の言葉。
これも彼を取り巻く日常の一つ。襲う気なんか更々無いのに。
「はぁ…俺って何なんだろうな」
自分の存在意義に疑問を抱き始める智であった。
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