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思わぬ発言に、一同の視線が小泉に集中する。
「トンネルの中なら緊急時用の電話があるハズです。私がそれを探してきます」
そう言って小泉は、運転席へと近付いた。
「運転手さん、懐中電灯を貸して下さい」
「君、止めておきなさい。この暗闇の中、懐中電灯の明かりなんて何の役にも立たない」
「では、手探りで進んでみせます」
その決意を秘めた表情に説得が難しいと判断すると、運転手の視線は淀谷に向けられる。
「先生、貴方も生徒の無茶を黙って見ているおつもりですか?」
車内の中で唯一の年上から言われた淀谷は、少し元の口調に戻るも、相変わらずタバコの煙りを吐き出しながら言った。
「私は今まで小泉のやる事に一切口を出した事はない。なぜなら私は、小泉をこのクラスで一番信用していますのでね」
信用という言葉で場を濁し、素っ気ない顔をしてみせる淀谷。
「し、しかし危険です」
「いいから、早くドアを開けてやってくれませんか。本人が行きたがっているのです」
若干口調を強めるも頑なに首を横に振る運転手に、
「きゃっ!?」
淀谷は近くにいたバスガイドを羽交い締めにした。
そしてその童顔に、煙草の火を近付ける。
「この新米バスガイドさんの顔に、一生残る痕つくぞ?」
その刑事ドラマでよく見かけるような悪役っぷりに、生徒達は皆、開いた口が塞がらなかった。
「わっ、分かりました。今、開けます」
そしてドアは音を立てて開き、闇へと通じる入口となった。
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