796人が本棚に入れています
本棚に追加
それから2時間が経過。
「…………」
全く進展の無い状況に、淀谷は無表情でタバコをくわえ、その先端にライターで火を点けた。
「あの、すみません先生、車内は禁煙ですので……」
バスガイドの言葉を無視して、口から煙りを吐く淀谷。
不穏な空気が煙りと共に漂う中、
「けっ……。大人は堂々と吸えていいよな」
その微かに聞こえた言葉に、淀谷の視線は座席の隙間から覗く金髪頭に向けられる。
「聞こえたぞ沢村。って事はお前、いつも隠れて吸っているという事だな?」
「あ? なんでそうなんだよ?」
淀谷はクラス一の問題児である沢村 湘(さわむら しょう)の席に近付くと、手の平を上に向けた。
「出せ」
「ああ!? 何をだよ!」
「墓穴を掘った癖に往生際が悪いぞ」
苛立ちが募った沢村はついに席を立ち、その試合前のボクサーのような迫力ある形相を淀谷の澄まし顔に近付けた。
「うるせえ! マナーを守らねえてめえにとやかく言われる筋合いはねえんだよ! このクソ教師が!」
--パァァン!
渇いた音が鳴ったと同時に、沢村の右頬に衝撃と痛みが走った。
最初のコメントを投稿しよう!