闇に浮かぶ箱

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「……ってえな! やりやがったな!」  左手を振り下ろしていた淀谷のネクタイを条件反射で掴みかかる沢村。その間に事態を予測していた港が割って入る。 「よせ沢村君、やめるんだ」 「どけ港! 売られたケンカは例え先公でも俺は買うぜ!」 「よっ、さすが沢村君! 不良の中の不良!」 「湯岡君、囃し立てないでくれ」  沢村から解放された淀谷は、相変わらず車内に煙草の煙りを撒き散らし、冷めた眼差しを沢村に向ける。 「ふん……。こんなクズをよくもまあ御手洗先生は今まで放置していたものだ」  御手洗(みたらい)とは、港達クラスの担任である。 「そもそもこいつらの引率を全部私に押し付けて自分は風邪で寝込むとは。ほどほど役に立たない教師だ全く」 「淀谷先生! 御手洗先生の悪口はやめてくれよな! 御手洗先生だって修学旅行来たかったんだ!」  ひとりの生徒を皮切りに、「そうだ」、「そうよ」と声が上がる。  それに触発された淀谷は、徐にバスガイドの側にあったマイクを取り、大きく息を吸い、思いの丈と共に一気に吐き出した。 『--っせえぞガキどもおおおおおっ! ナメた口利くと、今すぐ降ろすぞおおおおおっ!』  その耳を突き刺す絶叫と、普段見せない淀谷の狂気じみた表情に、シンと静まり返る車内。  助かる保証も無く、長時間閉鎖空間の中にいては、人の精神など脆いものであった。  ましてや淀谷にとって、自分の思い通りにならない生徒といつまでも一緒にいる事自体にストレスを感じずにはいられなかった。
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