その一

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      (一)  ここにあるのは、無数に自生している森林と、自然が織り成す風土の変貌。そして、過酷な野生生活を余儀なくされている動物たちの息づかいだけであろう。  深い山奥に残っている自然のままの森林地帯。この地形が変わるとしたら、それは天変地異といった神様にしか分からない自然現象であり、この森を生涯の生活空間としている動物たちの営みの余燼ぐらいのものだ。  このところ風の向きが変わって来た。北からの風が、この森に直撃するようになっている。もうすぐ冬だ……。  動物たちが走り回っている。暖かい土地に移り住む渡り鳥の姿はもう見えない。残っているのは、越冬のため食料を集める冬眠部隊だけだ。みんなそれぞれに、春までの快眠を確保するべく安眠ベッドを造成している。怠ったら次の春がやってくることはない。  もちろん動物だけではない。昆虫や植物だって、生あるものすべてがそうであるように。
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