その一

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 樹の枝にとまっている一羽の野鳥。そもそも野生の鳥に名前などないのだが、ここでは「飛鳥」と名付けておくことにしよう。飛鳥は森の中に視線を廻らし、雲の流れを一瞥し、季節の往来を身体で感じていた。  冷たい一陣の風が、羽を逆なでするように吹き抜けて行く。  早く巣を作らなくては……。  そんなことを考えながらも、ただひたすらに毛づくろいをしている飛鳥。 「大丈夫なのか? そんなことをしている場合じゃないだろう」  どこからともなく、声が聞こえた。飛鳥はクッ、クッっと首を動かしてみる。  しかし、何の姿も見えない。時折、枯れ枝をかき分けながら走り抜ける小動物や、虫を口にくわえた鳥たちが飛び交うだけだ。  それに、野鳥に言葉なんかあるはずないのに……。 「早く巣を作れ。死んでもいいのか!」  また聞こえた。確かに自分に呼びかける声だ。  飛鳥は、再びクッ、クッと辺りを見回す。  気のせいだろう、と思っていると、 「お前は野生の鳥なんだぞ。生きる術は、誰も教えてくれないんだぞ!」  この森に棲む動物の声ではない。
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