16の満月

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「おに――鬼? それって、桃太郎とかに出てくる鬼ですか」 「――ん、まぁ、平たく言えばそういうことだ」 桃太郎――やはりこの女、頭が少々弱いかもしれん。 「ははは、まさかぁ。 だって青さんめちゃめちゃ人じゃないですか。 確かに瞳の色は不思議だけど――でも、妖って妖怪のことでしょ?ないない。ないですよ」 青はため息を漏らすと肩にかけた手に力を込める。 「悪あがきするな、諦めろ。 お前は私の花嫁になるのだ」 「――ッ、青さん痛い」 僅かに動いた動作の見た目に反して込められた力は尋常でなく、芹は思わず青を見上げる。 「あ――――」 芹は青の顔をとらえたとたんにその纏う雰囲気、正確には人ならざる雰囲気に気圧される事となった。 からだの底から湧き出る未知の感覚。 捕まれた肩に何かが集まる感じを覚えながら芹は思わず呟いた。 「い、や」 一瞬視界が白に包まれ―――― 気付けば芹は1人だった。 一体何がおきたの? 芹はそう思ったのを最後にベッドに倒れ込むようにして意識を失った。 一方、青はあの時の芹が発した白い光に弾かれ窓の外にいた。 窓の外と言っても、芹の家からは100メートル近く離れていたが。 「青様!大事御座いませんか」 「あぁ、烏(カラス)か。私を心配するより、自分の身を心配しろ。お前も弾かれたのだろう」 烏と呼ばれたのは夜色の翼を持った青年。実は青が部屋にいる間、ずっと近くの木に留まっていたのだが。 よく見ると翼の一部が焼け焦げているようである。 「しかし、烏よ。 あれは凄い力だな。そばでみて初めてわかった。話しには聞いていたがまさか、ここまでとはな」 青は満足げに笑うと、先ほど触れていた左の手のひらを見つめる。赤黒く焼けたような手のひらの皮膚。感覚の鈍くなった左手からは白い閃光がバチバチとほとばしっていた。 「青様!お怪我を―― あの小娘、なんということを。花嫁の分際で青様に力を使うなど――」 「烏、落ち着け。 花嫁殿は少し気が動転していただけだ。それに、このくらいなら数刻もすれば治る、気にするな。」 夜も更け、青は咲き誇る満月を仰ぐ。 「期が熟した。あぁ、やっと巡る。やっと逢えた。 ――たとえ何と言おうとも私は今宵、お前を花嫁に迎えた。 決して手放すものか」 こうして、長い夜は終わりを告げた。
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