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「ん――朝?」
芹は昨日と同じ朝を迎えていた。
時刻は5時30分。今朝はアラームは鳴らなかったが、2年前から変わらない生活リズムは既に体に染み付いている。
低血圧気味の彼女は寝ぼけ眼で顔を洗うと着替えを済ませ、寝癖を整えてから準備しておいた鞄をもって朝の挨拶をする。
「お父さん、お母さん、まだ見ぬ私の弟。おはよう。今日も1日頑張ります」
リビングに降りると、パンにヨーグルト、少しのサラダをならべ朝食をとる。朝イチで回しておいた洗濯物をベランダに干せば準備完了。
「昨日のあれは、なんだったんだろう。――夢、だよね」
玄関先で靴を履きながら一人納得すると、7時30分からの朝補習に向けて芹は学校へと向かった。
「今日もいいことあるといいなぁ――て、あぁ。信号に引っ掛かっちゃった。ここ長いんだよねー」
よし、とおもむろに鞄からウォークマンを取りだしイヤホンを装着すると流れだした音楽に、朝の雑踏も消えていく。
「あれが蜜乃餌」
「みろ、結界だ」
「凄い力だ」
「欲しい。欲しいな」
信号はやがて青になり、既に学校に思いをせていた芹は自分の側を幾度となく走った陰。彼女の通学路にはあるはずのない陰には気付かなかった。
まして、彼女の数十メートル上空で不審な会話がなされていたことなど知る由もなく、当然、彼女の周囲数十メートルの範囲で自身の見えない力が展開されていたことも知らなかった。
「やはり、動き出したか」
「どうされます、青様」
「話をしようにも、我々も結界に拒まれているからな。暫く様子を見るしかなかろう」
「万が一のときはどうなさいます」
「その時はその時。
まぁ、力も見たいし花嫁殿には少し頑張ってもらおう。」
「御意」
波乱の幕は当人の知らない所で、静に上げられた。
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