消失ー『花嫁』の意味

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消失ー『花嫁』の意味

龍鬼家の屋敷は沈黙していた。突如企てられた謀反。鎮圧は屋敷に重く張りつめた空気を漂わせていた。今だ目覚めぬ花嫁。側近不在の主。愚かなものは我先にと烏の後釜を狙っては青の鋭い視線にひれ伏し、賢いものは今はまだとただなり行きを見守った。 詩織はただひとりで青と芹の身の回りの世話を黙々とこなした。多少の反発や妬みもあったがもはや恐れることではなかった。詩織は毎日芹を優しく見つめる青の姿を見て青同様に祈り続けた。 そんな日を幾日か繰り返した頃のこと、いつものように薬仙木が芹の体調を診察しいざ薬を与えようとしたその時。薬仙木は芹の脈が乱れたのを関知する。瞬時に脈をとるが異常はない。気のせいかと再び薬を与える動作に入った薬仙木は次の瞬間自身の体が熱くほてっていることに気づく。まるで燃えて焦がれて喉が乾くようなーーはじめての感覚だった。 「ーーーーんっ」 薬仙木が乾きを自覚した時、芹の口から微かな声が漏れた。 「おい」 薬仙木は息を殺して目を凝らす。ゆらゆらと揺れ動く芹の気配。触れた手首は正常に鼓動を刻んでいる。心拍と共に小さく脈打つそれをじっと見つめて、彼は再び声を投げた。 「おいーー」 「ーーふーーーーあ」 「聞こえるか」 「ーーは、い」 かすれる声で確かに返事がこぼされた。薬仙木はしばらくそのままの体制で芹の体を診察し、正常であることを確認する。しだいに芹の瞼が力なく持ち上がった。重々しく薄らに開かれた瞳はぼんやりと天井を見つめていた。 薬仙木はすぐさま詩織を呼びつけ芹の身を清めさせると、自分はその間に青を呼びに廊下へと出た。外の空気は冷たかったが、薬仙木には心地よかった。あの部屋は、今は何となく居心地が悪い気がしていた。 薬仙木は足早に青の元へ向かうと執務中の青に一言言った。 「おい、起きたぞ」 青は即座に立ち上がり一言も発せず駆けた。薬仙木はやれやれとあとを追いかけ、その間に一瞬考える。 ーー あの感覚は一体なんだったのか、と
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