16の満月

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「おはよう、芹。 誕生日おめでとう!」 「ありがとう!」 「はい、これプレゼント」 「わぁ、ありがと。 開けていい?」 「勿論。むしろ開けて?」 朝の教室。 後ろ窓際の席で繰り広げられる楽しげな会話。芹と呼ばれた少女はピンクの包みを受けとると、赤いリボンをほどき四角くく形どられた包装紙を丁寧に広げていく。 その大きさは手のひら程だろうか。 「わ、写真たて? ――っ、なにこれ可愛い! 嬉しい。本当ありがとね」 見れば横に倒された長方形の写真たて。シルバーの額の左上にはくりぬかれた三日月が、残る上半分には小さな星が散りばめられ右下には猫がちょこんと座っている。 「見た瞬間これだって思ったもんね!気に入ってもらえてよかった」 「凄い好みだよ!可愛い過ぎてやばい。 絶対、一生大事にするね」 少女はクロスさせた腕の中に銀のそれを抱きしめ顔を紅潮させる。 よほど気に入ったのだろう。 「ついに芹も16か。 とうとう結婚出来る年歳になったわけね。楽しみね、これから」 「ん?何が」 「そりゃ、彼氏よカ、レ、シ。 好きな人はいないの? せっかく大人の階段ひとつ上ったのよ?恋しなきゃ」 「えぇー、彼氏かぁ。 んー――――」 小さな背丈の少女は丸い瞳を上目使いで明後日に流すと、胸に伏せたものをそのままに、考えこむ。 ちんまりとした体に細い手足。頭を傾けぽけっとした思案顔は、さながら小動物の可愛らしさを思わせる。 数秒の後、満面の笑み。 「じゃあ美保が私の彼氏になってよ」 「あはは。可愛いやつ。 よし、じゃあこの美保様が芹のハツ彼になってやろう!」 「やった!美保大好き」 頭を撫でられ満足気な小動物。 間もなくして鳴った授業開始のチャイムに、慌てて広げた包みをもとに戻し鞄に仕舞う。 頭のなかはふわふわキラキラ。 授業なんでそっちのけで、今日という特別な日を満喫していた。
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