16の満月

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「ふー、やっぱり落ち着くなぁ」 髪を頭のてっぺんでお団子にし、少女は乳白色の湯船に身を沈めていた。最近のマイブームとなりつつあるこれは色をみてその如く、ミルクの入浴剤。 肌が心なしか潤う気がするのがお気に入り。 「よし、あと10分半身浴して上がろ」 白い湯を肩や腕に打ち掛けながら少女は明日のことを考えていた。 明日の授業は、課題は、提出物は?ひとつひとつを思い浮かべながら頭のなかでチェックしていく。 「あ、進路調査票。」 肩に触れた手を止め眉間にシワを寄せると数秒思案して立ち上がる。 あれから10分。全身に弾かれた水分を拭き取ると、おろした髪をタオルで挟み着替えを済ます。 自室に入れば、一目散に机に向かって進路調査票を取り出す。 少女の通う高校は県下でもトップクラスの名門進学校で、1年の頃から毎年2回も進路調査が行われるのだ。 必然的に毎年最近でも2回は個人面談があり、生徒にとっては迷惑なはなしなのだが、 「んー、とりあえず無難な大学にしとこ」 とまぁ、こんな具合に大半の生徒がはじめのうちは適当にか書くのが常だ。 「ん、よし。」 少女は空に近づくと、窓を開けベッドに腰かける。期待以上の夜の景色に、今日はとことん眺めていようと思っていた。 「綺麗な満月。 天気もよくて、よかった。 ――――なんだか、今日の満月は一段と色が濃い気がするわ。色も青白くってとても幻想的。」 すると、ざぁ、と一筋の風が頬を撫でるように部屋を揺らす。 「月は好きか」 「ええ、とても。」 月に魅入る少女は事の不自然さに気づいていない。 「夜は好きか」 「そうね、割りと好き―― え?」 自分以外誰もいないはずの我が家。 優しく問う声の存在にハッとすると即座に部屋を振り返る。 その目には、部屋の入り口に立つ見知らぬもの―― 。
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