16の満月

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振り向いた少女の視界に写ったのは部屋の入り口に立つ男。 腰ほどもある長い銀の髪はそのままに扉に背を預け腕を組むその肢体に纏うのは着流しと羽織。 真っ直ぐ見つめるような瞳は立ち位地のせいか見下ろしたようにも見える。 突然現れた謎の男。おまけに扉に立ちふさがる姿はまるで逃がさないとでも言うようで、微妙に微笑む様は普通に考えれば十中八九不審者。 でも、少女は不思議と恐いとは思わなかった。 蛍光灯の下だというのに、男が放つ雰囲気のせいだろうか。その姿はまるで月下にいるように涼やかで神秘的だ。 「綺麗――――」 無意識で呟いた声に男は一瞬驚いたようで、ピクリと動いた背をそのまま扉から離し滑るように少女へと歩み寄る。 「我が姿をみて綺麗とは――」 放心する少女の前へたどり着くと、片足を床につけ座り込む。 男は左手を上げ、それの髪から首筋に落ちた水滴を指先で撫で上げるように拭いとる。 触れた指先はひんやりとしていた。 しゃがんだせいで男の目線は下から見上げるようになっており、その瞳と仕草のあまりの艶やかさに思わずゴクリと唾のむ。 「触れてもなお恐れぬか。 肝の座った女だ。流石は蜜乃餌の末裔。お前ならば問題あるまい。 のう、 ――――我が花嫁殿」 「は、な、よめ?」 「そうだ。今宵、お前を我が龍鬼家の花嫁とした迎えよう」 えっと困惑する少女のをよそに、16初めての夜がやっと始まる。
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