16の満月

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「あの、えっと、どちら様ですか?」 「ん? あぁ、名乗っていなかったな。 我が名は青(セイ)。龍鬼 青だ」 「あ、初めまして青さん。 あの、どうやって私の部屋に?玄関の鍵は閉めたはずなんですが」 きょとんとして事態を把握できず、じっとしたまま問う少女に青は内心クスクス笑う。 立ち上がって彼女の隣に座り直せば彼女の目線も前から横へと付いてくる。 花嫁に反応したくせに最初に問うのはどちら様、か。おまけに、まだ私を恐れてはいない――一応ここは寝台の上なのだがな。 肝が座っているのか、鈍いのか。どちらにせよどこかずれているのは確かだな。 「ふっ、面白い女よ。 確かに玄関の戸は錠がかかっていた。だが、窓は開いていただろう。 私はお前の目の前を通ってきたではないか」 「え、窓? 目の前って、あれ、通りましたか?」 目を泳がせ慌てる少女。 「ははは、そう慌てるな。 ほら、こうやって入ってきたろう」 目を細め愉しそうに笑う青は少女に目を合わせるとスッと窓のそとに視線を向け少女のそれも夜空に誘う。 満月を見つめた刹那、一筋の風が頬を撫で部屋中を揺らす。 「あ、あの時の――」 思い出したか、と優しく問うと、青は少女の頭を撫でながら再び口を開く。 「私はお前を気に入った。 今宵、お前を我が龍鬼家の花嫁として迎えよう」 少女は今度こそ青の瞳をとらえて、そして―― 「はい、ごめんなさい。 ――お断りします!」
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