其之壱

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…これから近藤先生と殿内を殺しに行こうって、ところだったのに。 「…新見さんではありませんか。そちらこそ、どちらへ?」 暗闇の中から女の人の声がして。 「私は昼間芹沢さんに頼まれていた繕い物が仕上がったので、届けに参るところです」 先生の言葉に現れたのは新見さんだった。 新見さんの言う通り、頼まれていたという繕い物を包んだと思しき風呂敷包みを抱えている。 表情は暗くてよく見えない。 「そうですか。しかし貴女はそのような出で立ちしていても、女人であることに変わりはない。夜道にはくれぐれも気をつけてください」 「はい。京の町は辻斬りが多いという話ですからね。気をつけます」 新見さんは女の人だ。なのにいつも袴姿。 声はかなり高めの女の人らしい声だけど、女の人にしては背が高いから、話さないと男に見えなくもない。 いつもは洗濯や炊事みたいなことをしているけれど、時々近藤先生や芹沢さんと私には難しい話で対等に渡り合っているのを見たことがある。 今も、二人で難しそうな話をしている。私はすっかり蚊帳の外。 …やっぱり俺には刀しかないのかもしれない。 「…そろそろ芹沢さんのところへ行きますね。あまり遅いと、叱られてしまいますから」 「ああ、引き留めてしまって申し訳ない。では、これにて」 やっと話が終わった。…やっと、殿内を殺しに行ける。やっと、先生の役に立てる。 すぐに踵を返した近藤先生の背中を追いかけると、後ろから高めの声が響いた。 「…ああ、言い忘れていました。殿内さんをお探しならもう京にはいらっしゃいませんよ? 夕飯の後すぐに、京を発つと私に挨拶にいらっしゃいましたから」 …先生、その声を聞いてしまった先生の背中が怖いと思ってしまった私は、先生の弟子、失格ですか…? .
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