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「くそっあの女…!」
…こんなに怒った近藤先生は、私が九つの時に試衛館に来てから見たことがないかもしれない。私の知っている先生とは別人みたいだ。
肩を怒らせて前を進む先生を追いかけながら空を見上げると、北辰の星が雲がかかって見えなくて、その近くの北斗が困っているように思えた。
「―先生…」
どうしてこんなに変わってしまったんだろう。私が大好きだった先生は、いつも笑っていたのに。
「かっちゃん…じゃなかった、近藤さん。どうしたんだ?例の件で出かけるんじゃなかったのか?…もしかしてしくじったのか?」
「…土方さん」
役者の二枚目を張れる顔に眉間に深い皺の寄った。
八木さんの家の勝手口の壁に凭れて懐手した姿は、女の人から役者絵から抜け出してきたようだと言われるのも頷ける。
「歳、あの女にしてやられた。どこで知ったのか知らないが、例の件を嗅ぎ付けていたみたいだ」
「…またあの女か。まったく、水戸の天狗党の有名人の奥方だかなんだか知らねぇが、女が局長の地位にいるってのは気に食わねぇよな」
「まったくだ。女は水戸で大人しくして居ればよいものを」
私にとって新見さんはいつも浪士組の炊事洗濯を一手に引き受けている姿の印象が強い。
だから、どうして二人がこんなに新見さんを悪く言うのかがわからない。
「近藤さん、土方さん、新見さんはそんなに悪い人なんですか…?」
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