Chapter1 戦場の薫り

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 タイムマシンは存在しない。  だが、革命は起きた。先進国、取り分け第三次世界大戦を勝ち抜いた大日本皇国、アメリカ合衆国、英国、インド、ドイツの五大国の発展速度は凄まじく、様々な機械、軍事、魔法系統が確立されて採用されていった。  それでも、何事にも裏表がある。  諸刃の剣。魔法と引き換えに、人類は最上位捕食者としての地位を捨ててしまうことになった。  “また、夜叉と戦うのか……”  世界の到るところでほぼ同時に出現した生命体――『夜叉』。  魔法を使えて間もなかった人類は既存兵器で彼らに太刀打ちしようとするが、圧倒的な力の差を見せつけられて返り討ち。  ミサイルは虚空夜叉による魔法で迎撃され、歩兵部隊と戦車は地夜叉によって粉砕され、戦闘機は空夜叉の高機動な三次元の動きに翻弄されて撃墜される始末である。  “――先進国はまだ良かった……”  第三次世界大戦の爪痕が酷い日印独は未だ国内から夜叉の巣を殲滅できていないが、それでも欧米の殆どはとにかく火力に物を言わせて夜叉を滅してみせた。  しかし、発展途上国はどうだ?  大国同士の争いの戦場にされ、国家は疲弊し、魔法革命による恩恵も無く、夜叉の大軍に襲われ、どうしようもない絶望のなかで大国の援助も期待できずに過ぎていった無念の日々。  思い起こすだけで胸が詰まる。  今日が進藤一樹の知る西暦二〇五三年四月八日なら、今もユーラシア大陸の中心付近を始めとして、アフリカ大陸、オセアニア、南米西部等が夜叉の影響下にある筈だ。  “戦って、戦って……俺はまた失うのか?”
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