Chapter1 戦場の薫り

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 身と心を立ち上がらせた進藤は軍人時代の名残か、素早く作業服に着替え、壁に立て掛けてあった愛剣を握る。  進藤が鍛えた中の最高傑作品。未熟な腕ながら、魔力伝播の礎を築いた剣だ。相棒と云ってもいい。 「まぁ、ノルマンドの爺さんには勝てないだろうけど」  剣技、鍛冶師、どちらを取っても化け物みたいな老人を思いだし、懐かしさから笑みが溢れた。  当然だが、相手は進藤一樹を知らないだろう。  “皆が、俺を知らない……”  悲壮感と寂寥感に包まれる。  それでも今、誓ったのだ。  八年間に及ぶ悲惨な夜叉との終わりなき戦争。味方である筈の人間同士で殺しあい、領土を奪い合い、最終的に南、西、北の三方向同時襲撃によって帝都は陥落。  全員、死んだ。  “そんなこと、させてたまるか”  部屋を出る足取りに迷いは無い。  そんなもの、自室の布団に置いてきた。  これから進むのは――『修羅』の道。外道でも、仲間を救うため禁忌の業を背負うと決めた。  当然、進藤一樹一人で日本を救えると豪語するのは無理だ。兵士は戦術にしかならない。基本的なこと。  だから誓った。  例え『アイツ』らに憎まれようとも、疎まれようとも、嫌われようとも、絶対に死なせないように訓練をしてやろう、と。  “八年間の地獄と比べたら、安いもんだろ”  肩を竦め、一階に降りる。  誰もいないリビングを通過。朝御飯を食べたい誘惑に駆られたが、それでは時間に間に合わないだろうと判断し、玄関で靴を履き替え、進藤は言った。 「行ってきます」
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