361人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
身と心を立ち上がらせた進藤は軍人時代の名残か、素早く作業服に着替え、壁に立て掛けてあった愛剣を握る。
進藤が鍛えた中の最高傑作品。未熟な腕ながら、魔力伝播の礎を築いた剣だ。相棒と云ってもいい。
「まぁ、ノルマンドの爺さんには勝てないだろうけど」
剣技、鍛冶師、どちらを取っても化け物みたいな老人を思いだし、懐かしさから笑みが溢れた。
当然だが、相手は進藤一樹を知らないだろう。
“皆が、俺を知らない……”
悲壮感と寂寥感に包まれる。
それでも今、誓ったのだ。
八年間に及ぶ悲惨な夜叉との終わりなき戦争。味方である筈の人間同士で殺しあい、領土を奪い合い、最終的に南、西、北の三方向同時襲撃によって帝都は陥落。
全員、死んだ。
“そんなこと、させてたまるか”
部屋を出る足取りに迷いは無い。
そんなもの、自室の布団に置いてきた。
これから進むのは――『修羅』の道。外道でも、仲間を救うため禁忌の業を背負うと決めた。
当然、進藤一樹一人で日本を救えると豪語するのは無理だ。兵士は戦術にしかならない。基本的なこと。
だから誓った。
例え『アイツ』らに憎まれようとも、疎まれようとも、嫌われようとも、絶対に死なせないように訓練をしてやろう、と。
“八年間の地獄と比べたら、安いもんだろ”
肩を竦め、一階に降りる。
誰もいないリビングを通過。朝御飯を食べたい誘惑に駆られたが、それでは時間に間に合わないだろうと判断し、玄関で靴を履き替え、進藤は言った。
「行ってきます」
最初のコメントを投稿しよう!