Chapter1 戦場の薫り

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          †  四月八日、午前九時三二分。  大日本皇国陸軍福岡基地司令部は様々な報告などで溢れ返り、三桁に届くであろう大型モニターには各種戦線の映像が写し出されている。  “不味いな……”  佐官を表す黒い軍服に身を包んだ妙齢の女性が無表情で部下からの報告を吟味した。  上官たる者、決して部下の前で狼狽えた姿を見せてはならない。戦場において不安と混乱は容易く伝播、拡散、定着してしまう。 「司令、第一次防衛線が突破されましたッ!」  数あるモニターの中心に移された九州の俯瞰図。長崎、佐賀より進撃する夜叉を防ぐための第一次防衛線、第二次防衛線が描かれ、配置された大隊の名前が記されている。  女性は淡々と命令を下す。 「第一次防衛線は絶対に死守だ。ブレイド大隊を前面に押し出せ。戦車夜叉の殲滅を優先させろ」 「はっ、了解しました! HQよりブレイド1、直ちに前線へ移動を開始せよ!」  通信兵が即座に後方に控えていたブレイド大隊へ指示を出す。緊張と使命感を含んだ返事がなされ、ブレイド大隊の面々が最前線へ躍り出る。 「秋綴司令、このままでは……」 「皆まで言わずとも解っている」 「はっ、申し訳ありません」  副官である篠崎の言葉を一蹴。  彼女も優秀な軍人である。司令部が混乱しては前線の士気に繋がることは重々承知。にも拘わらず、弱音が口に出ると云うことは――。  “前線が維持できるのは良くて三十分か……”
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