Chapter1 戦場の薫り

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 右翼はまだ辛うじて夜叉の進軍を防いでいるものの、左翼はいつ崩れてもおかしくない。  既に討伐しきれていない夜叉が第一次防衛線を突破し、基地近くの第二次防衛線に肉薄しているのだから。  このままだと、左翼を担当しているセイバー大隊とジロンド大隊は夜叉によって包囲殲滅を食らう危険性が高まってしまう。左翼は総崩れ。そのままなし崩し的に戦線は崩壊してしまうだろう。  “……源本様に何とご報告すればいいのか”  九州は今、三〇年前に現れた自律進化型生命体『夜叉』によって、長崎と佐賀全域を占拠されている。  第三次世界大戦の爪痕のせいで早期殲滅できなかったのも災いだったが、海軍の一大拠点を握られ、東シナ海を渡ってくる夜叉の後続を断ち切れずに、いくら奴らを叩いたとしても無限とも思える増援を前にして戦線構築するしか手は無かった。  前線基地である福岡が陥落してしまえば、九州は全滅してしまう可能性もある。  そうなれば沖縄、台湾へ補給物資を安全に運べなくなり、大陸と大平洋を塞き止めている防衛線は瞬く間に瓦解してしまう。  “皇帝陛下にも、どのような顔向けをしていいのか”  大日本皇国は万系一世の皇帝陛下を頂点に、各地方に割り当てられた大名がそれぞれ治めている連邦国家だ。  九州全域を治めている源本と皇帝陛下に託された福岡基地司令長官である秋綴哉子(あきつづり かなこ)は奥歯を噛み締めた。
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