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「司令……」
「なんだ?」
「こうなればやむを得ません。市街地の住民を一時後方に避難させるべきかと。そして、基地周辺に張ってある結界を拡げ、夜叉の進撃をくい止めるしかありません」
部下の進言に即答せず、秋綴は戦況を把握して模索する。どうすればこの進撃を阻めるものか、と。
篠崎の言うことは尤もだ。
ブレイド大隊は精鋭で名を馳せているものの、一万を越す夜叉の大軍を前にすれば雑兵も同じ。圧倒的な戦力差で蹂躙されるのが目に見える。
一ヶ所抜かれてしまえば、後は見るも無惨な敗走を遂げることは必至だ。
士気向上を謳おうにも、それは皇帝陛下や源本の姫君のような神々しさを兼ね備えた『英雄』でなければならない。
“私には無理だ”
身の程は充分に弁えているつもりだ。基地司令長官であり、大佐である自分がノコノコと前線に顔を出せば福岡基地の常識を疑われる。
“弛んでいた、と言い訳するのは卑怯というものか”
アフリカ戦線で快勝し、大陸戦線で英雄が生まれ、ここ数ヵ月夜叉の攻撃が無かったことも重なって、福岡基地の兵士たちは無意識のうちに気を緩ませていたのかもしれない。
秋綴は気付いていながら、それを黙認した。
今は父親と進めている研究の方にしか頭が回っていなかったからだ。
「だが、あの結界を発動させれば福岡基地周辺は数ヵ月使い物にならなくなるぞ」
「住民の命、または九州全土と比較すればやむを得ないかと」
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