Chapter1 戦場の薫り

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 無論、モニターを見ればシルバーファングと書かれているため確認せずとも一目瞭然なのだけど、敢えて篠崎に尋ねると、部下である彼女は僅かに顔をしかめて答えた。  “訓練兵の頃、一時的に教官を勤めていたからなコイツは”  教え子たちの成長の無さに、失望と不安を兼ねているのだろう。  モニターを眺める視線。そこには『心配』と云う二文字が大多数を占めていた。――きっと本人は否定するだろうが。  目頭を押さえ、溜め息を飲み込む。  駄目だ。徹夜明けのせいか要らないことばかり考えてしまう。  “研究が間に合えば、こんなことには――”  部下を責めるのは御門違い。  秋綴の研究が全軍に普及すれば戦力増大は間違いなし。なのに、いっこうに進まない。適合者が居ないことも原因か。  “って、今は夜叉のことに――” 「司令、結界の準備が整いました」 「――ああ。全通信兵に告げる。生き残っている残存部隊を今すぐ後退させろ。余力のあるブレイド大隊を殿(しんがり)にし、出来る限り多くの兵士を下がらせるんだ!」 「了解しました!」  各部隊ごとに割り当てられた通信兵が、一斉に秋綴の指示を飛ばしていく。  これから張るのは『異界』とも呼べる結界だ。  巻き込まれたら命を保証できない。  だからこその後退。  しかし、左翼を担当している通信兵が大声で叫んだ。 「おい! シルバーファング5、何をそこでボケッとしている! 早く後退しろッ!」 『あ……あ……』 「HQよりシルバーファングへ、直ちに後退せよ! シルバーファング5も急ぎ後退せよッ!」  徐々に後退する左翼前線。  仕方ない。時間稼ぎにしかならないが、包囲されるよりも生き残る確率は上昇する。 「何をしているんだ。残存部隊を早く一定ラインまで下がらせろ!」
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