Chapter1 戦場の薫り

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 怒鳴る秋綴に併せて、篠崎も通信兵の出す声に負けじと大声で命令する。 「支援砲撃を前線へ集中砲火! 撤退を援護するんだ。ブレイド大隊に当てるなよ!」 「了解しました!」  基地上部に備え付けられている魔法砲からの支援砲撃は、通常だと兵士のいない夜叉の後続へ集中的に砲火する。  そうでなければ遊軍を巻き添えにしてしまうからだ。  一発の威力は相当なものなのだけれど、門衛夜叉の圧倒的な魔法耐性によって最近では威力を発揮しなくなっている。  だが、前線だと敵の種類も少なくなる。  触手夜叉に戦車夜叉、土竜夜叉に地夜叉、そして空夜叉。これらに対しては魔法砲の攻撃は大変有効なもの。  撤退支援としては定石とも呼べる手だ。  “ぞくぞくと後退を始めてはいるが……”  いかんせん遅い。ブレイド大隊ならいざ知らず、他の部隊も何を躊躇しているのか足取りが重い。  特に、シルバーファング中隊は致命的。モニターに映るのは発狂して突撃し、戦車夜叉に踏み潰された齢二十歳前後の男だった。  “……馬鹿者が! 戦場では冷静になれと訓示しただろうが!”  情けない部下に憤りを覚える中、 「HQよりシルバーファングへ、支援砲撃が三〇秒後そちらへ集中する。急いで後退せよ!」  いくら通信兵が一喝しても、シルバーファング大隊、とりわけシルバーファング5は動かない。  尻餅をついて、触手夜叉の腕に掴まった。  “あれでは、もう――” 「――司令、彼らは見捨てるしかありません。これ以上の猶予を与えれば、左翼が完全に瓦解してしまいます」  篠崎が感情を圧し殺した声で呟いた。
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