Chapter1 戦場の薫り

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 自殺行為。戦意喪失。  夜叉の種類、造形、対処方法。そのいずれも頭に叩き込み、投影機駆(シミュレーター)を通して完璧と称していいぐらいに身体へ叩き込んだ。  ――その、筈だった。  “……違う――!”  しかし、シルバーファング中隊は戦場を嘗めていた。秋葉は夜叉の本性を直視していなかった。  死も畏れず突き進む戦車夜叉。  畏怖と嫌悪を与える触手夜叉。  地面の下から奇襲する土竜夜叉。  投影機械で戦った彼らとは訳が違う。匂い、威圧、容姿、対処、そのどれもが『失敗しても決して死ぬことのない投影機械の訓練』とは違っていた。  慢心だった。  たった少し歴代最高点を叩き出したからといって、先任たちの才能と努力を嘲笑ったことの罰なのか。  “違う!”  何が天才! 何が救世主!  秋葉は愕然としながら、戦場に身を置く。  昨日まで楽しみにしていた実戦。  さっさと武功をたてて、日本皇国民に対して救世主が現れたのだと認識させようとしていた自分が愚かしいを通り越して、秋葉自身の手で殺したくなってきた。  教官たちの叱責も、今なら解る。  ああ、何てことだ――、  “間違っていたのは、私だったんだ……”  多くの仲間が死んでいく。  シルバーファング中隊は崩壊寸前だ。  夜叉によって蹂躙されている。  本当の戦いとはかくも違うものなのか。生き死にのかかった戦いとはこうも恐ろしいものなのか。
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