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『シルバーファング5、何をしている! 早く後退せよ!』
右耳に嵌めていた通信機器から怒声が響く。秋葉たちと司令部を繋げる通信兵の声だ。
“……私だ”
シルバーファング5。それは辻貝秋葉のこと。中隊規模なために、シルバーとファング、そしてシルバーファングの三つにコールサインは分かれている。
当然、シルバーファングは部隊内で最強の証。歴代最高点を叩き出した部隊で上位十名に与えられる称号は、増長していた秋葉の自信を更に駆り立てるものだった。
だが、右の網膜に表示される情報を確認してみると、シルバーファングで生き残っているのは僅か三名。
シルバーは五名。ファングは七名。
先日まで五十人を超えていた部隊の人間は、今や半分以下になっていた。
「――――ッ!」
様々な顔と名前が脳裏を過った瞬間、秋葉の撤退を援護しようとしたシルバー3が戦車夜叉の直撃を受けて呆気なく命を散らした。
胴体を中心にバラバラとなった肉片を尻目に、秋葉はただジリジリと後退するだけ。
魔法を使う意思も、反撃をしようとする反骨も既に皆無。霧散していた。
「……ッ!?」
無論、夜叉にしてみれば秋葉は人間。敵だ。逃げようとも戦おうともしない人間を前に、見逃すと云う手段を取る筈がない。
気付けば、触手夜叉の腕によって身体を持ち上げられていた。
四肢をガッチリと固定され、身動き一つできない。魔力銃も地面に投げ捨てられてある。
不思議と死への恐怖もない。
“……ああ、馬鹿だったなぁ”
思い出すのは教官の罵倒。
後悔するのは調子に乗っていた過去の自分。
走馬灯は終わり、触手夜叉の腕全体に現れた小さな口に食されるのを待つ。
――だが、彼女は知らなかった。
戦略になり得なくても、
戦術になり得る世界最強の兵士がいることを。
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