Chapter1 戦場の薫り

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 一陣の風が吹いた。  桜の花びらを連想させるほど暖かく、されど切れ味鋭い日本刀のような強烈さを兼ね備えた突風が吹き荒れ、意識が現実に戻った時には再び地面に尻餅をついていた。 「痛ッ!」  三メートル以上の高さから落ちたのだ。お尻が超絶に痛い。真っ赤になっているだろう。  普段ならストレスの一端を担うであろう痛覚でも、現実感を亡くしていた秋葉にとって救いの手。  呆然と呟く。 「一体……何が……?」  顔を挙げる。  ――刹那、秋葉は息を呑んだ。 「――――」  八等分された触手夜叉。撒き散らされた白い肉片と血のような赤い体液。風によって舞い上がった土煙。  その向こうに、青年がいた。  染めていない天然物の茶髪は短すぎず長すぎない適度な長さ。  秋葉を心配そうに見詰める鷲色の瞳は、何故だか嬉しそうな、悲しそうな複雑な色を浮かべている。  端整な顔立ち。右耳にピアスを嵌めている。工事現場の作業員が着ていそうな、汚れてもそれが当たり前と思える服に袖を通しており、右手には彼の得物である剣が握られていた。 「あ、あの……」  軍人ではない。少なくとも、福岡基地に在籍している人間ではない。  だけど――。  だけど、どうして――。 「どうして……そんなに――」  辛そうな顔をするんですか? 「大丈夫か?」  青年は傍に落ちていた通信機器を左耳に装着、左目に映る情報を吟味しながら尋ねた。
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