Chapter1 戦場の薫り

19/45

361人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
「は、はい」 「そうか。良かった」  咄嗟に頷くと、彼は心底嬉しそうな笑みを浮かべる。  年相応の少年を彷彿される純粋な笑顔に秋葉の胸が高まる中、青年は一転、厳しい口調と表情で言い放った。 「ここにいろ。動くなよ」  前言撤回。  彼は、軍人だ。  あまりにも堂々とした命令口調に身体が震えた。  これほどまでの威圧感を放つ上司は、秋葉の知るところだと秋綴しかいない。 「…………」  言い返さず、ただ首を縦に振る。  青年は口角を吊り上げて、秋葉の頭を乱暴に撫でた。  髪は女の命。誰彼構わず触れさせてなるものか。よくある男が髪を撫でる行為など唾棄すべき。  そう思っていたのに――。  “気持ちいい……”  出来ることならもっとしてもらいたかったのに、青年は秋葉の頭から手を離し、一気に魔輪を最大輪まで駆動させた。 「ちょ、待っ……。何よこれ!?」  此処は戦場。死がすぐ傍にある地獄へのプラットホーム。  様々な夜叉が逃げ遅れた秋葉と青年に殺到する。その数は三桁を越している。  敵う相手ではない。  にも拘わらず、青年は飄々とした態度で剣を無造作に真横一閃。解き放たれた魔力が形を成して、夜叉の進撃をたったの一撃でくい止める。  無属性魔法変化、(ぜん)。  知っている。  秋葉はこの魔法を知っている。  有属性は云うに及ばず、数少ない無属性の中でもとりわけ珍しく希少な魔法――『波動』。  なすすべ無く蹂躙されたシルバーファング中隊を嘲笑うかのような魔法の威力によって、一時的に防衛戦は保たれた。  青年は片手を左耳に当て、言う。 「シルバーファングよりHQへ。撤退を支援する」
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加