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「は、はい」
「そうか。良かった」
咄嗟に頷くと、彼は心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
年相応の少年を彷彿される純粋な笑顔に秋葉の胸が高まる中、青年は一転、厳しい口調と表情で言い放った。
「ここにいろ。動くなよ」
前言撤回。
彼は、軍人だ。
あまりにも堂々とした命令口調に身体が震えた。
これほどまでの威圧感を放つ上司は、秋葉の知るところだと秋綴しかいない。
「…………」
言い返さず、ただ首を縦に振る。
青年は口角を吊り上げて、秋葉の頭を乱暴に撫でた。
髪は女の命。誰彼構わず触れさせてなるものか。よくある男が髪を撫でる行為など唾棄すべき。
そう思っていたのに――。
“気持ちいい……”
出来ることならもっとしてもらいたかったのに、青年は秋葉の頭から手を離し、一気に魔輪を最大輪まで駆動させた。
「ちょ、待っ……。何よこれ!?」
此処は戦場。死がすぐ傍にある地獄へのプラットホーム。
様々な夜叉が逃げ遅れた秋葉と青年に殺到する。その数は三桁を越している。
敵う相手ではない。
にも拘わらず、青年は飄々とした態度で剣を無造作に真横一閃。解き放たれた魔力が形を成して、夜叉の進撃をたったの一撃でくい止める。
無属性魔法変化、蠕。
知っている。
秋葉はこの魔法を知っている。
有属性は云うに及ばず、数少ない無属性の中でもとりわけ珍しく希少な魔法――『波動』。
なすすべ無く蹂躙されたシルバーファング中隊を嘲笑うかのような魔法の威力によって、一時的に防衛戦は保たれた。
青年は片手を左耳に当て、言う。
「シルバーファングよりHQへ。撤退を支援する」
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