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あれは一体、なんだ?
秋綴はモニターに映る青年を眺め、答えの出ない問いを己に課す。
シルバーファング5を助け、崩壊一歩手前だった左翼を一撃で持ち直らせた男。どこか見覚えのあるその横顔に想いを馳せていると、
『シルバーファングよりHQへ。撤退を支援する』
男の声が聞こえた。司令部に響き渡る。皆が突如飛来した謎によって思考停止に陥っている中、最も早く復活した通信兵が叫んだ。
「貴様、何者だ! 何故一般人がここにいる!?」
おい、訊くべきはそこじゃない。
そもそも先程の魔法を見て一般人と準える通信兵の脳味噌を解剖したい。さぞやツルツルの綺麗なそれなのだろう。
『はは、一言めがそれとは。前線基地、それも秋綴司令直轄の福岡基地司令部通信兵とは思えない無能っぷりだな』
男は嗤い、それでも迫り来る夜叉の大軍へ身を投じる。
「何、だと!? 貴様ァ……!」
『いいから、秋綴司令を出せ。彼女に伝えたいことがある』
彼は縦横無尽に戦場を駆け巡る。
触手夜叉の腕を見えない斬撃で斬り落とし、隙を衝いて戦車夜叉の背後に回って斬り刻み、土竜夜叉の作る奇襲用の穴を先回りして崩壊させる。
彼は戦場を知っている。
この短時間で屠った夜叉の数は目測計算だが二〇〇体を越す。ブレイド大隊の持つ記録をあっさりと塗り替えてくれた青年は余裕綽々と云った顔。
今までどうやって隠れていたのか知らないが、どうやら一騎当千の強者らしい。
だが、それだけだ。
「司令……」
篠崎の声。言わずとも解る。
秋綴は頷き、顎で通信兵の元へ行くように命じた。
「貴様なんぞに秋綴司令が話すことは何もない! それよりも貴様はどこの人間だ! 諜報員ならばこの戦いが終わった後でじっくりと――」
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