Chapter1 戦場の薫り

22/45

361人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
 聞き流すことのできない単語を言い放った青年をモニター越しに睨みながら、秋綴は冷静になれと自身に言い聞かせる。  了解しました、と篠崎が手渡す通信機器を右耳に嵌めて、 「私が秋綴だ。時間が無いな、私にどうしてほしいのだ?」 『やっと出たか。支援砲撃は右翼に集中させてくれ。こっちは俺が何とかする。結界発動を出来る限り早めろ!』  腕を胸の前に突き出し、青年はそれぞれの掌で空中に半円を描く。繋がった円に無数の模様が生まれ、放出された波動が戦車夜叉もろとも吹き飛ばす。  “癪だが、従うしかないな” 「解った。だが、貴様が敵ではない証拠を貰おう、そして貴様が何故アレを知っている?」 『俺は進藤一樹だ。駆逐艦「雷」と言えば後は解るよな』 「――貴様、優香里の息子か。確かに奴から聞く歳に近いし、顔もどこか見覚えがある。で、後者の問いはどうなんだ?」 『これを凌いでから何でも答えてやるから! 独房にでも何でも入れて構わないから、さっさと他の部隊を後退させろッ!』  ブレイド大隊は残り十六名。他の部隊を入れれば、残り三十二名が前線で殿を勤めている。  思考は一秒。  秋綴はモニターを眺めて言った。 「……了解した。貴様は一分そこを持たせろ」 『了解!』  通信機器を通信兵に投げ渡す。  まだ二十歳を越えていない若造に命令されるのは些か癪ではあるけれど、この状況では奴に軍配が上がっても仕方がない。 「篠崎、結界を五分後に発動させる。用意はいいな?」
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加