Chapter1 戦場の薫り

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           †  進藤は剣を握る手に有らん限りの力を込めて、三メートルを越す触手夜叉の胴体、腕、脚部その他を切り刻んだ。  頭に血が昇っていた。  進藤一樹の誇る速度そのままに霧散させた触手夜叉。そのモノが掴んでいた人間を見た瞬間、記憶の流入が止まらなくなったからだ。 「痛ッ!」  艶のある光沢を反射させる長い黒髪。透き通るような黒の双眸。化粧をつけていないからこそ、その白い美貌は輝きを放っている。  黒と青で彩られた45式強化戦闘服の下からでも、なおその存在をこれでもかと云わんばかりに強調する豊満な胸。 「一体……何が……?」  既に得物は放棄してしまったのか、彼女は何も持たずに尻餅をついたまま進藤を見上げていた。  “――懐かしいな、秋葉”  前の時代で、進藤の副官として共に幾度の戦場を駆け抜けた戦友。告白もされた。断ったけれど、それでも一緒に居続けてくれた。  大事な人だ。  共に苦酸を舐め、絶望に浸り、希望を求めて足掻いて、最後は笑顔であの世へ旅立った。  “それでも、やっぱり……”  辻貝秋葉は、進藤一樹を知らなかった。 「あ、あの……」  解っている。  秋葉に罪が無いことも。  あるいは覚えているかも、とはしたなく希望にすがった進藤が愚かしいことも。  けど、想像していた以上にこれは――。  “……ははは、キツいな畜生”  見知らぬ者を見る不審げな瞳。  突如現れた怪奇に怯える瞳。  目に見えない刃が進藤を貫いた。 「どうして……そんなに――」 「大丈夫か?」  秋葉の台詞を遮った。  そうしなければ、泣いてしまいそうだったから。
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