Chapter1 戦場の薫り

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 目尻に溜まった涙を意志の類いで捩じ伏せ、進藤は秋葉を優しく見詰める。  きっと、今浮かべている表情は辛く悲しそうなそれなのだろう。鏡を見ずとも、その程度容易に把握できた。  怪訝そうな秋葉の視線から逃げようとする弱い己を殺して、ただただひたすらに彼女の存命を喜んだ。 「は、はい」  秋葉の応えに、進藤は微笑む。 「そうか。良かった」  しかし、不思議だった。  進藤が助けに入らなければ、確実に秋葉は死んでいた。触手夜叉に捕まって、近くに戦闘続行できる仲間が居なかったのだから。  殺される土壇場で誰かが秋葉を助けたのか? そうでなければ、前の時代で秋葉が生きていた辻褄が合わないのだけど。  もしも進藤の他に、過去に戻った人間がいるとすれば――。  “あり得ない話じゃない”  現に進藤一樹は未来から過去へ時間を超越した。  否定する要因は無く、肯定する材料はここにある。  “いや、これは秋綴大佐と話せばいいことか”  答えの出ない疑問を脳味噌の隅に追いやり、自然と強張った表情で進藤は言った。 「ここにいろ。動くなよ」  腰を抜かした秋葉一人で安全に撤退できると考えられない。左翼に押し寄せる夜叉の大軍を押し留めてから、一緒に撤退するのが最も安全で速いと判断した。  左目に映る各地の戦況。  右目に映る秋葉の首肯。  良い子だ、と思い、彼女の頭を無造作に撫でる。サラサラとした肌触りに気持ちよさを覚えながらも、進藤は刻一刻と近付く夜叉に殺気と敵意を向けた。
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