Prologue 最後の願い

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 意識は在る――大丈夫。  身体は動く――当たり前。  剣を振れる――まだ行ける。  魔力も現存――ならば行こう。  刻印も輝く――見てろよ、バカ。  生きていれば問答無用で恩師に殴られそうな発言にも、ふと青年の口から苦笑が洩れた。  “……ああ、そうだ”  笑っていた仲間。愛想が無くても最後には笑っていた恩師。誰よりも愛していると告げてくれた恋人。  脳内で何度も乱回転する思い出と感情に浸りながらも、青年は力強く剣を握った。  “……まだ、戦える”  瞬間、四方八方から夜叉が襲い掛かってきた。  平野にいる夜叉の内、六割が異形型触手夜叉であり、三割が耐久型戦車夜叉だろう。目測、及び経験則でしかないが、およそ近い割合になる筈だ。  残り一割を地中型土竜夜叉だとすれば、取り合えず触手夜叉と戦車夜叉の包囲網を突破しなければならない。  まさに青年が死地を脱するに必須条件である。  “……クソ、もう二日も戦いっぱなしだってのに――!”  伸縮自在の腕を鞭のように振り回しながら接近する触手夜叉の大群。  数にして一〇〇体は下らない。それ故に、二〇〇本以上のよくしなる鞭が殺到する計算だ。  通常、大日本皇国最強と謡われた青年の腕なら苦もなく排除できるのだが、いかんせん無茶苦茶な戦闘継続時間と全身に負った傷のせいで思うように対処できない。  魔法も使えず、一本一本見極めて躱し、躱して、躱し続け、静謐な身体捌きの邪魔にならない範囲で剣を振るう。
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