Chapter1 戦場の薫り

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 秋葉の頭から手を離し、即座に体内器官の一つである――『魔輪』を駆動させた。  人類が魔法を放つ際に必要とする手順は、基本的に三行程に分けられる。  先ず第一に、空気中に微粒子レベルで散布されている『マナ』を呼吸と共に体内へ摂取。  第二に、魔法と云う概念が生まれたほぼ同時期に、人類の進化として形作られた新たな体内器官――魔輪でマナを魔力へ変換。  第三に、それぞれの人間が持つ属性と術式を用いて、魔力を魔法へ昇華させることで、(ようや)く人類は魔法を行使できる。  高い実力を持つ者ほど、この行程を速やかに実行できる上に魔力の練りがきめ細かいため、行使される魔法の威力も飛躍的に増大可能。  進藤もその例外ではない。  培われた魔輪と魔力の拡散を一瞬で行う。溢れ出た魔力が目に見える形で進藤の身体周辺を奔流する。 「ちょ、待っ……。何よこれ!?」  当時、実力も見識も人並み程度だった秋葉には驚愕の光景だろう。  何せ同年代の男が当時としては常識の類いだったものをぶち壊したのだから。  肩に刻まれ、青白く輝く魔力刻印。  更に増幅された魔力を最も得意な魔法へ格上げ。手を通じて剣身へ封入される。  無属性魔法変化、蠕。  剣を横薙ぎに振るった瞬間。  先頭をひた走る戦車夜叉を横転させ、地面に潜る土竜夜叉をあぶり出し、触手夜叉の柔らかい身体を挽き肉状に、地夜叉を勢いのままに吹き飛ばした。  一時的に止まった夜叉の進軍。  絶句する秋葉を尻目に、進藤は至極冷静な声で司令部へ告げる。 「シルバーファングよりHQへ。撤退を支援する」
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