Chapter1 戦場の薫り

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 シルバーファングとは懐かしい響きだ。『銀の牙』を冠する部隊に属していた三年前を思い出す。  “――いやまぁ、シルバーファング中隊が解体されるのは今から五年後なんだが……”  実にややこしい。未来から過去へ時間移動したのだから、進藤視点の時間と世界視点の時間に狂いが生じるのも当然なのだけど。  “そもそもこの戦いに参戦している時点で歴史変えてるけど、まぁいいか”  どうやって秋綴大佐に時間移動した証明をしようかな、と悩みながらも、進藤は魔力活性にて人類に課せられた身体能力の限界を軽く突破する。  瞬間的に押し返した戦線も、後方から再び押し寄せる戦車夜叉によって又もや差し込まれそうだ。  “相変わらずキモい”  戦車夜叉は全高三メートル、全長四メートル、全幅五メートルを越す化け物だ。身体の前方付近は堅い甲羅に覆われており、弱点とされるのは後方の柔らかい部分しかない。  六本の短い脚を駆使して走る様はまさに夜叉の突撃一番槍。最高時速六〇キロ超。直撃するだけで人間はおろか、人類の誇る対地特化型兵器である戦車も一撃で破壊するのだから笑い話にすらなりはしない。  当初、戦車夜叉が現れた時、全世界同時に悲嘆と驚嘆、恐慌と絶望の渦に巻き込まれたらしい。  茶色と黒を基調とした醜い容姿に嫌悪感を覚える。  “ただまぁ、未来で俺を殺す一端を担ってくれたわけだから”  ――殺しても文句は受け付けないぞ化け物め。 『貴様、何者だ! 何故一般人がここにいる!?』
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