Chapter1 戦場の薫り

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 戦況は圧倒的にこちらが不利。  頼みの綱だった機甲師団は既に壊滅状態、最前線に投入された各大隊も損耗率が軒並み七割超、司令部では福岡と佐賀の県境を結界で防ぐ算段を講じている筈だ。  そうしなければ、福岡基地を蹂躙した夜叉の軍勢が後に九州全土へ散らばっていくだろう。  “そんな状況で、俺に向かって一般人とは――”  笑わせるな、怠慢通信兵が。 「はは、一言めがそれとは。前線基地、それも秋綴司令直轄の福岡基地司令部通信兵とは思えない無能っぷりだな」  嘲笑しながらも、進藤は横一列になって突進してくる戦車夜叉の隙間を縫うようにして回避。同時に、刃渡り三メートルにまで伸ばした剣を振るった。  魔力で構成された刃が、戦車夜叉の弱点である背中の柔らかい肉を斬切する。  赤黒い血が噴出。叫び声も挙げずに横転し、絶命する。 『何、だと!? 貴様ァ……!』 「いいから、秋綴司令を出せ。彼女に伝えたいことがある」  続々と襲い掛かる夜叉の第一陣列、最も速度の速い戦車夜叉の猛攻を躱わして、躱わして、躱わして、斬って、斬って、斬りまくる。  夜叉には知能がある。その証拠に、場面場面に応じて彼らの最優先破壊目標が変化するからだ。  今も、ただ真っ直ぐ市街地を睨下していた夜叉の紅い眼が、殆ど全て進藤一樹一個人へ向けられた。  標的が移り変わったのだ。  “こうでもしないと、秋葉の方に行っちまうからな”
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