Chapter1 戦場の薫り

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 数百体を一気に一掃したかと思えば、その後方から土煙と共に夜叉の増援が見えた。  解っていることとは云えど、途切れることのない奴らの物量に目眩がしそうだ。 『貴様なんぞに秋綴司令が話すことは何もない! それよりも貴様はどこの人間だ! 諜報員ならばこの戦いが終わった後にでもゆっくりと――』  驚くよりも怒りが勝った。  福岡基地は大日本皇国と夜叉に於ける最前線基地。ここを突破されれば九州を失うだけでなく、沖縄と台湾の防衛ラインが破綻しかねない。  つまり、戦略的価値を持つ一大拠点の筈だ。  にも拘わらず、先見性の無い司令部に加え、圧倒的不利な戦況を知りつつも安易に戦後の事を語る通信兵までもが蔓延っているとは――。   「この戦い、早期に終わらせないと九州が全滅するぞ!」  事実、前の時代では九州はこの時の大規模侵攻によって陥落した。  福岡基地を突破され、同時に長崎から熊本と鹿児島へ奇襲を受け、住民の避難もままならないまま司令部は混乱状態、海軍による海上からの面制圧魔法飽和攻撃も最上位存在の虚空夜叉によってその殆どが迎撃されてしまい、僅か二週間足らずで九州全土が夜叉の支配地域に犯されてしまったのだ。  だからこそ最大限危機感を含めた台詞を発しても、通信兵は怒鳴り返すだけだった。 『何を戯けたことを――』  そう思ったが、唐突に通信が途切れ、進藤の耳翼を懐かしい声音が撫でた。 『私が秋綴大佐だ。貴様の名前、目的、どこの所属かを早急に言え』
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