Chapter1 戦場の薫り

31/45

361人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
「――――」  “…………ここまでとは”  呆れ返るとはこの事か。  九州全土を制圧された日に因んで付けられた『4・22の悲劇』にて母を失った進藤の面倒を見てくれた大恩ある女性の声。  されど、期待した内容では無い。  殺到する地夜叉と触手夜叉を相手にしながら、進藤は歯痒い思いを噛み締めつつ一喝した。 「――ああ、そうかよ。お前らがここまで弛んでいることは俺の想定外だったよ。なぁ、篠崎大尉!」 『…………!』  驚愕から息を飲む音が鼓膜を微かに揺さぶった。  その音すらも進藤の神経を逆撫でする。  気付かないと思うのか。敬愛していたアンタたちの声を聞き間違うとでも思うのか!  それは理不尽な怒りだろう。  現時点では、彼女たちと進藤の繋がりは皆無。顔や名前はおろか声すらも知らなくて当然だ。  しかし、進藤は憤怒に駆られたまま空夜叉の天辺から股まで一刀両断する。  “こうなったら、一か八かだ”  秋綴の興味を惹かせるために吼えた。 「そこにいるんだろ、秋綴大佐! 俺は“二つの印”を持っているッ!」  これで秋綴が出なければ、進藤がこの戦いに介入した意味も水の泡となるが、果たしてどうなるか。  死刑宣告を待つ罪人の如く、ひたすらに夜叉と戦いながら左耳を揺さぶる振動を待っていると――。 『私が秋綴だ。私にどうしてほしいのだ?』  “ようやく来た!”  初めて会った時と変わらない声音に感動するのも束の間、進藤は早口で希望を告げた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加