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「やっと出たか。支援砲撃は右翼に集中させてくれ。こっちは俺が何とかする。結界発動を出来る限り早めろ!」
進藤は左目から受け取る情報――厳密には左翼に集まってきた膨大な夜叉の軍勢に思わず舌打ちを洩らした。
両腕を胸の前に突きだし、それぞれの掌で空中に半円を描く。お互いの手が重なり、一つの円となったところで魔法を起動させた。
無属性魔法変化、烈波。
積み重なるようにして向かってくる化け物の壁目掛け、魔力を超濃縮して出来た衝撃波を放つ。
右足を軸に三六〇度回転。
無くなりかけていた足場の確保と呼吸を整える時間を数秒だが得ることができた。
『解った。だが、貴様が敵ではない証拠を貰おう、そして貴様が何故アレを知っている?』
確認を行いつつも、既に支援砲撃は右翼に集中している。ブレイド大隊の撤退もこれで多少は容易になるだろう。
“確か、お袋と秋綴司令は親友だったよな”
少しだけ胸を撫で下ろし、大技の連発で乱れた息を落ち着かせ、進藤は薄れている記憶を頼りに言う。
「俺は進藤一樹だ。駆逐艦『雷』って言えば後は解るよな」
『――貴様、優香里の息子か。確かに奴から聞く歳に近いし、顔もどこか見覚えがある。で、後者の問いはどうなんだ?』
案の定、進藤と駆逐艦『雷』の単語だけで連想可能だったようだ。
一瞬で進藤優香里の息子だと認識したせいか、若干言葉の棘が少なくなったな、と微笑もうしたその時。
“――おいおい、マジかよ!”
今までなりを潜めていた虚空夜叉の一体が中央前線に現れた。甲高いアラーム音が木霊する。
「これを凌いでから何でも答えてやるから! 独房にでも何でも入れても構わないから、さっさと他の部隊を後退させろッ!」
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