Chapter1 戦場の薫り

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 夜叉の作る(ネスト)には幾つかの決まりがある。  最も厄介なのが、各地に作られた巣と情報共有がなされること、そして確実に虚空夜叉が四匹以上存在することだ。  一匹でも出てこられたら非常に厄介。身体能力は桁外れ、知能指数は人間とほぼ同格、魔法の威力と使用頻度は人間と比べるだけでも烏滸がましい。  強化戦闘服を着ていて、尚且つその場に進藤と虚空夜叉だけなら対処の仕様もあるけれど、こんな乱戦状態で、更に撤退する部隊を支援しながらでは戦闘にもなりはしない。  おそらく司令部は未だ虚空夜叉の出現に気付いていないだろう。最前線にまで躍り出た進藤の通信情報端末だからこそ察知できたのだから。  秋綴の思考は一秒だった。 『……了解した。貴様は一分そこを持たせろ』 「了解!」  やることが解ったなら後は単純作業。虚空夜叉の存在に気を揉みつつも、左翼の防衛線を限界まで構築しておけばいい。  空間そのものを異界にしてしまう結界ならば、虚空夜叉でも手出しできないのだから。  “――けどまぁ、結界発動の時間を早めることができて良かった”  記憶が確かなら、前の時代でも結界を発動したものの、既に別ルートから市街地と福岡基地目掛けて夜叉の大軍が進撃し、数分の遅れが基地全滅、九州崩壊へ繋がったのだ。  動き回りながら時間を確かめる。  六十秒が経過していた。 「こちらシルバーファング、結界発動まで残りいくつだ!?」
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