Chapter1 戦場の薫り

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『――こちらHQ。残り四分を切ったぞ!』 「了解! シルバーファング5と共に撤退ラインまで後退する!」  生き残った兵士たちは撤退を終えている。現在、戦場にいるのは秋葉と進藤の二人だけ。  幸い他の前線と違って、左翼前線は県境に近い。  “けど、間に合うかどうか――”  脚に魔力活性を集中。鍛冶師としての作業服のため、魔力刻印を応用した全速力は出せないが、それでも出来る限りの速さで秋葉の元へ駆け寄る。 「え、あの……」 「いいから捕まってろ!」  何か言いたげな秋葉の身体を持ち上げ、脇に抱えたまま、即座に地面を蹴った。 「口を開くな。舌を噛むぞ」 「…………!」  コクコクと頷く黒髪少女。  土埃を背景に、進藤は一目散に戦場を離脱する。夜叉の死骸や嗅ぎ慣れていても辟易する悪臭に眉を潜めながら、結界範囲をギリギリで突破した。 『HQより全戦闘員へ告げる。広域異界結界発動開始。巻き込まれぬよう注意せよ。――繰り返す――』  滑り込むようにして撤退を終えた進藤は秋葉を地面に下ろし、紫色に覆われた結界の表面を拳で軽く殴った。  まるで天地を繋げる巨大な壁のようだ。 「タイムリミットは三ヶ月ってところか」  三ヶ月経てば結界は解かれ、大陸から増援を受けた夜叉たちはこれ見よがしに再度大規模侵攻を仕掛けてくるだろう。  “その間に、どうにかして航空戦力を……” 「アナタ……何者なの?」 「ん?」  突然の問い掛けに振り向くと、秋葉が呆然とした顔で進藤を見上げていた。  畏怖が八割、尊敬が二割。  哀しみに苦笑して、簡潔に答えた。 「――ただの救世主だよ」
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