Chapter1 戦場の薫り

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 あれから半日が経過した。  時計もなく、腕輪型情報端末も取り上げられてしまい、薄暗い独房の中で鋼鉄製の椅子に縛り付けられているため、進藤一樹の主観的な憶測による時間経過でしかないけれど。  “しまったな……”  別段、この程度の裁量に異議を唱えるつもりはない。  いくら撤退を援護したとしても、進藤が怪しい人物なのは明白だから。  それは素直に受け入れよう。  取り抑えられる時も抵抗しなかった。剣を預け、魔力の流れを阻害させる首輪を嵌められ、手錠によって一つに纏められた腕を引かれて連行される時も文句の一つも言わずに従った。  しかし、進藤は唸る。  “トイレに行きたい……ッ!”  朝起きてから一度も排尿、排便していないのだ。そろそろ限界。マジヤバイ。  とは云え、巡回している軍人に対して、涙目兼低頭しながらトイレに行かせてください、と懇願してもあからさまに馬鹿にした態度で一蹴されたばかり。  “テメェこの野郎、つまり漏らしてもいいんだなッ?”  例え進藤が短時間で三桁の夜叉を殺せるとしても、人間であるのなら生理現象に抗うのは不可能だ。  “しかも、夜叉を殺しまくって調子に乗ってしまったのか、秋葉に恥ずかしいこと言っちまったし……”  救世主って……。  今頃、アイツ底無しのバカなんじゃねぇのか、と罵倒されていそう。  現に、秋葉と初めて会話したとき罵詈雑言の嵐を食らったから、十二分に有り得る話だろう。  “クソ、失敗してばっかりだ”
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