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もっと上手く立ち回る筈だったのに。
篠崎と秋綴にため口で命令した挙げ句、秋葉に向かって黒歴史ものの答えを口にするとは――。
“もう一度、今朝からやり直すのは無理だよなぁ”
それにしても、秋葉の眼は辛かった。
彼女たちに進藤と関わった記憶は存在しない。まさに他人。馴れ馴れしく話しても、不信感を露にするだけだろう。
“秋葉だけでもアレだから……”
脳裏を過る女性の顔。
“姫に会ったら泣くかも、俺”
未来から過去へ。後悔した行動をやり直したいと願うのは誰にでもある共通理念。
もう会えないと思っていた仲間に会う感動よりも、共に過ごした年月が消えてしまう寂しさの方が進藤の印象としては強かった。
「――秋綴司令!」
必死に尿意と戦っていると、見張り役の男が敬礼した。
カツカツと音が聞こえ、鉄格子の向こうに見覚えのある妙齢の女性とボサボサの黒髪を直そうともしない青年が現れた。
「見張りご苦労。そろそろ貴様は休んでいいぞ」
「はっ! あ、いえ……司令、自分もこの場に――」
秋綴雪江。僅か三十後半の年齢にして福岡基地の司令及び皇国陸軍大佐、皇国技術所の副所長まで兼任している。
この頃から胸が小さいのを気にしていた、と思う。
何せ八年前のこと、記憶があやふやで朧気だ。
「貴様は機密を聞きたいのか? いざとなれば、貴様の身柄を拘束してでも情報漏洩を防がなければならないが……」
「い、いえ! では司令! 自分はこれで失礼しますッ!」
「ああ、お疲れ」
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