Chapter1 戦場の薫り

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「な……ッ?」 「一度死んでるんだ。生への執着なんてものは無いよ。好きなやつの人生を、護りたいやつの運命を、ただどうにかしたくて、変えてやりたくて、だから今朝も戦ったんだ。お陰で歴史は少し変わったよ。だからもういい。秋綴さんに殺されるなら本望だし。さっさと殺せ」  三ヶ月後、大陸から増援を受けた夜叉の大規模侵攻によって結局のところ九州は落ちるだろう。  けど、何かが変わるかもしれない。  三ヶ月と云うモラトリアムを得た彼らは、この劣勢を覆すかもしれない。  それならば良い。  進藤一樹は既に死んだ人間だ。  仲間を護れなかった人間だ。  だからもう関与しなくて正解かもしれない。 「言いたいことだけ言って、はいサヨナラって事か? 最近の若造は本当に世の中を嘗めているな」 「DNA鑑定で進藤一樹って一致してるんですよね? そこのボサボサ頭も俺が嘘を吐いていないって認めてるんですよね? 工作員になれる余地すらないのに、一八歳の若者を縛って撃って脅す三十後半生き遅れババアに言われたくないです」 『――うわぁ、言っちゃったよ』 「…………」 「早くしてくれ。そろそろ尿意が限界なんだ。洩らしちまう前に死んでおきたい」  死ぬ前に姫の顔をもう一度だけ見たかったけど、どうせ向こうは覚えていないんだろうな、と醜く唇の端を吊り上げる。  秋綴は嘆息し、進藤を指差した。 「……やれやれ。紫音、お前はコイツを信用できるか?」 『――少なくとも嘘は吐いていないし、敵なら今朝の行動が不可解、刻印も持ってるし、あながち未来人でもおかしくない』
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