Chapter1 戦場の薫り

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「最低なのは同意するさ。福岡基地陥落の責任を取らされ、それを弁護した父上が銃殺刑に遭い、なんとか進藤に刻印を適合させたことで恩赦を受けたらしいからな」  それでも中佐に降格したようだがな、と嗤い、短くなった煙草を灰皿に潰して棄てる。 『――まぁ、有り得る話だよ』 「ああ、一樹から言われた道路を見れば納得したよ。まさか結界の外側に夜叉の強襲用通路が出来ていたとは。アレでは防ぎようがない」 『――結界を発動する装置を壊されればすぐにでも県境は復活するしね』  進藤も言っていたが、タイムリミットは三ヶ月しかない。  一年以上にも及ぶ夜叉の活動休止に対し基地全体の空気がいかに弛んでいたと云え、今回の失態は許容範囲を遥かに超えている。  魔力戦車を主軸とした機甲師団はほとんど破壊され、前線に投入されて夜叉と白兵戦をする兵士――『武芸士』の部隊も軒並み損耗率が高く、病院はてんやわんやの大騒ぎ。  残り三ヶ月でどこまで復旧させて、どこまで武装を高めることができるのか。 『――心配ご無用。何とかする』 「……心強いが、いつになくヤル気に満ちているな。何かあったのか?」 『――アイツはボクを知らなかったよ。皇国陸軍大佐に登り詰めたアイツが、雪江と仲良かった筈のアイツが。つまりボクは、今日死んでいたことになる』  珍しさから目を見開いた。  ここまで紫音が文字列を作るなんて。  いつもは短文なのに。 「成る程、それは嫌か?」 『――アイツに見せるだけ』  たこ焼きを食べ終えた紫音が手の甲で口を拭った。 『――天才は一人じゃないって』
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