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四月九日、早朝。
小鳥の囀ずる音が聴覚を、昨日と変わらない太陽の光が視覚を刺激する。
真新しく綺麗な畳が十枚添えられた和室の中心。進藤に割り当てられた佐官室の布団で寝ている、昨日の鬼神のごとき戦いを行った青年と思えない年相応の男の姿があった。
“か、勝手に入ってよかったのかしら……?”
布団の側で正座する尉官の服を着た女性――辻貝秋葉は、命の恩人である彼の寝顔を見ながら一人不安と戦っていた。
昨晩、何故か不機嫌な様子の篠崎大尉に言われて、まだ薄暗い早朝からこうして進藤一樹の部屋に赴いた次第。
“……さ、最悪、上官不敬罪で銃殺刑かも”
助けてくれた青年がまさか少佐という階級だったことに驚愕し、良く考えぬ内に二つ返事で了承した昨夜の己が忌まわしい。
少し考えれば解るものだ。
もちろん浮かれていた、というのもある。
“ううん、大丈夫。いざとなったら篠崎大尉のせいにすれば――”
訓練兵の時に教官を勤めてくれた恩師を売り渡すことを覚悟し、進藤が起きるのを待っていると――。
「うん……?」
「あ――!」
彼は起床用のラッパが鳴り響く前に目を開けて、寝惚けるような態度を見せぬままスクっと上半身を起こした。
「お、おはようございます、進藤少佐!」
「……うーん、おはよう、辻貝」
眼を擦り、両手を組んで背を伸ばす進藤。寝癖の付いた髪の毛を掻きながら、首を傾げて訊いてきた。
「何で俺の部屋にいるんだ?」
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