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呆けるように眼前の肉体美に気を取られていた秋葉に対し、進藤は悪戯っ子のような笑みを顔に張り付けていた。
これが彼なりのスキンシップ、もとい冗談と気付いたのは後日のことで、秋葉は顔を真っ赤にして否定した。
「ち、違います! 部屋の外で待っていますからどうぞごゆっくりお着替えなさってくださいッ!」
返事も聞かずに一目散に部屋から出る。ちょうど起床用のラッパが鳴り響き、基地全体が慌ただしく動き始めた。
秋葉は一人、佐官室の前で仁王立ち。
恥ずかしさなどに頬を赤く染めつつも、まだ福岡基地の建物内部に詳しくない進藤を案内しなければならないためだ。
“……けど、あれって私を励ましてくれたんだよね?”
自信を失った部下を奮起させるのも上官の役目。当たり前のことだけれど、実践できる人間は数多くないのが現実である。
同い年とは思えない威厳のある命令は、あんな失態を犯しても、心根に植え付けられた軍人としての責務を思い出させてくれた。
「凄いなぁ、進藤少佐」
「何がだ?」
ポツリと溢した感想に答えたのは黒い佐官服に着替えた進藤だった。
適度に寝かせてある茶髪、鷲色の瞳、身体から漏れる厳粛とした雰囲気。
そのいずれも先程と同一人物だと思えない空気を醸し出していた。
「いえ、何でもありません!」
「そうか、ならいいが」
進藤は冷たい感情を瞳に宿し、
「辻貝少尉、一つ貴様に教えておくが、軍人の基本である公私の区別を付けられない愚か者は、例え任官されている者と云えども容赦無く『修正』していくからな。覚悟しておけよ」
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