Chapter2 軍の在り方

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「え……?」 「聞こえなかったのか、辻貝少尉」 「いえ、そうではありません少佐殿!」  蔑視にも似た瞳に狼狽える心を静め、敬礼と共に胸を張る秋葉。彼の豹変ぶりに内心ビクビクしながら。  進藤は顔色一つ変えず、軍人としての空気を身に纏う。 「プライベートの時はどのように呼んでも構わないが、軍務の時は気を付けるんだな。そうでなければ他の連中に嘗められるぞ」  特に我々は若造だからな、と忌々しそうに言葉にした進藤を見て、秋葉は一つの推測に至った。  “もしかして、昔からそうなのかもしれないわ”  当然、能力のある者や上官に才能を見出だされた者は若くして出世する。  特に、夜叉と戦うことが命題と云われるご時世。  佐官であれ、尉官であれ、呆気なく突発的に戦死する。昇格と降格の回転数が平時に比べて異常に早まるのだ。  逆に才能が無ければいつまで経っても、うだつの上がらないままであるけれど。  十代で少佐にもなる程の才能とコネを有した進藤は、きっと昔から心無い嫉妬や罵倒を食らっていたのだろう。  軍隊では良くある話。  抑圧された環境。  いつ死んでもおかしくない情勢。  仲間が失われていく恐怖。  幾つもの要因が重なり、ストレスとなって、気に入らないものを攻撃してしまう。  秋葉も訓練兵時代からそれに近い現場を幾度も目撃してきた。  彼らの行動は人間として極自然的なものだと思う。  ――無論、見習う気は更々ないけども。 「は! 了解しました!」 「うむ、いい返事だ。では、案内を頼むぞ少尉。情けない話だが、空腹なんだ」
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