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進藤の前を歩く秋葉の顔は生憎と視認できない。
別段、しようとも思わなかった。
彼女は淡々と口にする。
「今は悲しむべきじゃないと思います。少佐が仰っていたように、私たちのタイムリミットは残り三ヶ月ですから」
圧し殺せていない感情の波が、言葉の節々から犇々と伝わってくる。
いくら尉官の軍服を着飾っていても所詮は子供。今は軍務を優先すべきだと理解していても、心底から溢れる悲しみを押さえきれていないのだ。
無論、進藤も頷くだけ。
「そうか」
「はい」
未来において、秋葉はもっと悲惨な現場を網膜に焼き付けた筈だ。そんな状況に身を晒しても、彼女はPTSDにも掛からず、黙々と己のすべきことをこなし続けた。
それは紛れもない辻貝秋葉の強さだ。
進藤が副官として信頼していた最も重要なポイントはそこである。
「辻貝少尉、歩きながらで構わないから聞け。貴様が戦う理由はいったい何だ?」
「……え?」
背中越しにも、秋葉の動揺が簡単に見てとれた。
「この問いに答えはない。貴様が軍人になろうとした理由、化け物みたいな夜叉と戦おうとする理由、あるんだろ?」
「……私は、両親の仇をとりたいんです。アイツらを殺すために戦っています」
それは前にも聞いたことのある台詞だった。
少し内容が異なっていたけれど。
「ならば、仲間の仇も取れるようこれからも精進することだ。幸いなことに、俺の副官ならその機会は多くやって来るだろうかな」
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