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「は。了解しました」
振り返り、軍人らしい様になった敬礼をする。再び踵を返した際に、一瞬だけ彼女の晴れていない素顔が目に映った。
これ以上、秋葉の内面に突っ込むのは止しておこう。
この時代では彼女と知り合ってまだ一日だ。時間にしてみれば一時間も経過していない。
少々寂寥感に苛まれるが、これから先はもっと言葉を交わしてからが望ましい。
“迂闊に馴れ馴れしくすると、下手なところで俺の存在がバレるかもしれないし”
いくら憲兵部隊が目を開かせていようと、セキュリティを頑丈にしていようと、数の違いがあれ必ず他国のスパイは存在しているだろう。
当然ながら、寝る前に自室を念入りに調べた。盗聴器は発見できずに終わったが、それでも油断は出来ない。
刻印――Magic Seal《MS》は日本でしか開発されていない最先端魔法技術の一つだ。
その水準は本格的な実践配備まで届いていないものの、応用すれば魔力戦車や魔力銃、開発が難航している戦略級魔法兵器を完成できるかもしれないという代物である。
それを指揮する女性――秋綴雪江大佐。彼女の属する福岡基地。大陸から増援され、途切れることのない防衛戦を三〇年も維持している九州は色々な意味で注目の的なのだ。
故に、スパイが存在すると確信している。
特に、シベリア共和国とアメリカ合衆国のそれらがうじゃうじゃと巣くっている筈。
「――こちらが佐官室から最も近い第三食堂になります」
秋葉の声に反応し、面を挙げる。
目の前には忙しなく動くおばちゃんたちと、軽々三桁に届くであろう数の長机が所狭しと並べられていた。
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