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眼につくのは、やはり包帯やガーゼを身体のあちこちに張り付けている者たち。薬品独特の匂いがする。
秋葉を見ると、頬がひきつっていた。
料理と薬品の匂いが混ざり合い、食堂全体がなんとも言えない感じに仕上がっているからだろう。
進藤は肩を竦めた。
“――もう馴れたな、この匂いも”
入り口付近にいた軍人たちが少佐の姿を確認し、一斉に胸を張り、手の先をこめかみに付けた。
『おはようございます、少佐殿!』
「ああ、おはよう」
答礼し、秋葉を伴い朝食を選択。
比較的空いている場所を探し、それでも周囲にいた人間たちの敬礼に応えて、大好物であるカツ丼を前にいただきますと両手を合わせた。
「……皆さん、驚いていますね」
朝食軽バリューセットを頼んだ秋葉が眼だけを動かして、周囲を見渡しおもむろに囁いた。
今、新しく若い少佐に向けられる猜疑心と嫉妬心の入り交じった視線が集中していた。
こうなるだろうな、と予測していた進藤は、それらに気にも止めず箸を動かす。
「俺の副官なら慣れておいた方がいい。どの基地でも最初は絶対にこうなるからな」
「は、了解しました」
「それよりも、午前十時までに比較的軽傷だったシルバーファング隊員をブリーフィングルームに集めておけ」
「――解りました。その間、少佐はどちらに?」
「悪いが、俺はこれから基地司令と話があるんだ。貴様の仕事はそれからになるな」
サンドイッチを手に、秋葉は問い掛けた。
「私は着いていくことができないのでしょうか?」
「すまないが、これは機密の話なんだ。少尉程度の貴様が知っていいような内容ではない。諦めろ」
「……はい」
了承の言葉を最後に、進藤たちは黙々と朝食を摂った。
“部隊編成なんかもしないといけないし、これから休みなしだな”
少々げんなりとした気持ちになりながら。
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