Chapter1 戦場の薫り

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 左右の肩に描かれている刻印。鋭利で左右対称の模様だ。眼を凝らすと、線に沿って青く、淡く輝いている。  初めて見る筈なのに、どこかそれを暖かく感じた。まるで長年この刻印によって命を助けられているような――。 「おいおい、何考えてんだよ、俺は……」  上半身裸のまま頭を振る。気のせいだ。有り得ない。どう考えても夢想のもの。  青年――進藤一樹はただの鍛冶師だ。それ以外の何者でも無い。解りきっているだろう。  無論、魔力を伝達するための特殊な技術を会得するため、魔輪の動かし方、魔力の応用、剣技もそれなりに修得した。 「けどそれは……」  たしなむ程度。最前線で今も夜叉と戦う軍人とは比べ物にならないだろう。  そもそも比較することが烏滸がましい。  だが、進藤の違和感は尽きなかった。  何かがおかしい。  昨日と今日、就寝前と起きた後では何かが根本的に違っている。身体の造りは云うに及ばず、魔輪の限界魔力供給量、脳に刻まれた戦いの定石、そして極めつけは肩に輝く刻印だ。  “何があった――?”  そう、まるで――長年前線へと赴いていたかのような身体の変化に首を傾げた直後だった。  後頭部を金槌で殴られたような激しい痛みが襲う。何度も、何度も。  これまで受けたことの無い痛みに悶え苦しむ。立っていられずに、歯を食い縛り、床を転がった。 「――――」  声が出ない。  あまりの激痛に眼を瞑って、とにかくこの苦難が去るのをひたすらに待っているしかなかった。
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